朝ちゃんという名の女の子だった
僕達は男三人鴨川でなんとなく凧揚げをしていた
良く晴れた夏の休日だった
うだつの上がらない男たちの凧は一向にうまく上がらない
あの頃は軽やかに舞い上がっていたのに!
悩み、不安、猜疑心、自尊心、孤独、偏見
年を取りすぎた僕達の凧は鉛のように重かった
「お兄ちゃん下手くそだね。ちょっと私に貸してみて!」
朝ちゃんはやってきてそう言った
お父さんぺこりと遅れてやってきた
朝ちゃんは何度も補助輪付きの自転車を爆走させて凧糸を引っ張った
凧はざざざっと無情にも引きづられていっただけだった
結局お父さんが一番うまく凧を揚げた
やっぱり凧をうまく揚げられるくらいじゃないとお父さんは務まらないんだなと思った
風を集めて空高く舞い上がった凧はまるで鳥の様だった
ごねる朝ちゃんを抑えてお父さんはぺこりと頭を下げて帰って行った
気が付けば日曜日の太陽が川に落っこちていた
それが凄く美しくて、なんだかたまらない気持ちになった