ママチャリに乗って少年が通り過ぎていった。やや小太りのそいつは傍目から見たらおばさんみたいだったけど、風に吹かれてる柔らかい髪の毛と不自然なサドルの高さでそれは少年だと分かった。
そのママチャリは母親のだろう。どこへ向かうのだろうか。ふと気になった。
学校は休みか。平日の朝だぞ。コンビニに行くような軽装だ。寒いのに。
でもそんな時が俺にも確実にあった。
つっかけで、母親の自転車を借りて、そのままどこまでも行けそうな。
高校生の頃に思いつきで鎌倉まで半日かけて自転車で走った。
ただひたすら漕ぎ続けた。
到着した鎌倉のドトールでコーヒー一杯だけ飲んで、そのまま往復して帰ってきてそのまま夜のバイトに行った。
自転車で走り続けなければならない日が人生には何度かある。ママチャリだと尚良い。
ふとあの少年の写真を撮りたいと猛烈に思って後ろを振り返ったけど、もうそこには少年の姿はなかった。